TWIGGY.ではヘアーカラーリストという専門職のスタッフがいます。大島佑介もそのひとり。彼の“染色人生”の「ステージが変わった」と感動した、奄美大島の泥染めの体験レポートです。
世界でも奄美大島だけで行われているという天然の染色方法「泥染め」は、世界三大織物の「大島紬」を支える伝統技法としても有名。今回大島がお邪魔した「金井工芸」の金井志人(ゆきひと)さんはその技術を受け継ぎ、国内外のアパレルともコラボレーションし、伝統と現代を見事に融合させている染色人だ。
ある日、金井さんがinstagramで、自分の髪を泥でグレイッシュな色に染めている投稿写真を見つけて、大島は衝撃を受けた。
「こんなプリミティブな方法で髪を染めることができるのか!」
ウールなど動物性のテキスタイルを泥で染めるなら、人の髪を染めることもできる。
そしてそれは限りなく夢と希望のある発見だった。
2021年11月、大島は奄美大島の金井さんの工房にお邪魔する。建物の歴史ある佇まいと独特の酸の匂い。
まずは布を「泥染め」する工程を教えてもらった。
①「テーチ木染め」(下染め)
奄美大島原産の車輪梅の木(奄美ではテーチ木と呼ばれる)の枝をチップにして2日間煮込む。
抽出した煮汁をさらに数日寝かせて染料となった液体に、生地を何度も漬け込み揉み込む。
②「泥媒染め」
工房のそばの泥田に移動し、褐色に染まった生地をさらに泥に何度も漬け込んでいく。
泥田から滲み出る地層の鉄分が、車輪梅に含まれるタンニン酸と化学反応を起こし、生地は少しずつ黒色に変化していく。ここの泥は150万年前の古い地層から溶け出す鉄分が、他にはない大島紬の深い黒色を生み出すそうだ。
大島が泥染めの工程の中でもっとも衝撃的だったのは「すべてが島内でサーキュレーションになっていること」だった。車輪梅は防風林としても必要な存在なので、をむやみに伐採するのではなく、間伐材を使っている。染料に煮出した後の木は乾燥させて、次に煮るための薪に。そして薪が灰になったら、奄美伝統のお菓子の「あくまき」に使うという。
すべてを使い切るという完璧なサイクルに、カラーリストとして泥染めを実現させたい、と大島は気持ちを新たにして、研究に取り組むこととなった。
(後半に続く)