松浦美穂のインスピレーションは多岐にわたるが、その根底には60年代のカルチャーとその当時のポジティブな反骨精神がある。50年代後半から70年代への流れは、音楽と密接にあったファッションやヘアスタイルも変化の激しい刺激的な時代だった。当時を代表する人やブランドの中で松浦がインスパイアされたのは何だろうか。
■ファッション
「60年代初期の各国でまだ戦争の影響が強く残る頃。特にイギリスはヨーロッパ諸国に比べて戦後の復興に立ち遅れ、根強い階級制も残り、社会問題が絶えないなか、世の中は暗いムードでした。でも、その中で重苦しい空気を一新して、世界を輝かせたひとりの女性がいました。アートの感覚に優れ、ファッションやインテリア、コスメなどのビジネスを成功させ、当時パリに押されていたムードを一気にロンドンへ流れを呼び込んだ人物。それがマリー・クヮント(MARY QUANT)でした。ミニスカートやロングブーツ、とびきり短いホットパンツで世界中を驚かせて。安価なジャージ素材や新素材を使用するなど先進的な人でし た。ヘアスタイリストだったヴィダル・サスーンやモデルのツィギーと ともにスウィンギング・ロンドンという新しいストリートカルチャー の旋風を巻き起こしたんです。現在に通じるストリートファッションの 先駆者ですね。
また、60年代半ばにバーバラ・フラニッキが立ち上げたBIBAは、スウィンギング・ロンドンを代表するブランド(SHOP)として一世を風靡しました。アールデコ・プリントやフレア調のグラマラスなファッションで、1920年代を彷彿とさせるオートクチュール的な要素もある。ボヘミアン調やヴィクトリアン調の空気は男性も巻き込んで、リーゼントヘアは前髪(バング)が重めのマッシュルームヘアになったり、ロングヘアになったりと、一見男女の見分けがつかないジェンダーを超えたスタイルの流行が始まりました」